皮膚の病気


感染症

皮膚疾患のほぼ8割が感染症によるものです。


マラセチア性皮膚炎・外耳炎

簡単な検査ですぐに診断できます

犬種がわからないほどの皮膚炎です。
このワンちゃんはボランティアの方に保護された迷子犬です。

全身を毛刈りしました。犬種はウエスティです。この犬種は非常にアトピーの多い犬種で、皮膚炎が多発いたします。院内ですぐにできる検査として、皮膚掻爬(寄生虫の検査)、スタンプ(感染症の検査)を行います。

顔面・下腹部・四肢の炎症が強く、皮膚はゴワゴワ厚くなり、脱毛しています。原因を調べたところ、マラセチア(酵母菌)が検出されました。この菌は正常でも皮膚に存在し、皮膚炎や外耳炎の原因となります。

3週間後の様子です。ボランティアさんに毎日シャンプーしていただき、皮膚炎が改善しました。抗菌剤を投薬すれば相乗的に治癒しますが、シャンプー療法だけで、皮膚炎が改善するよい例となりました。


細菌感染による皮膚炎

シャンプー療法・抗生物質が効果的ですが、再発する場合があります

外耳炎・下顎から下腹全体四肢までつづく皮膚炎で、発赤・掻痒・痂皮・脱毛がおきています。脇・内股は特に皮膚が肥厚していました。
検査結果は細菌感染とマラセチアの混合感染です。
細菌感染の治療の基本はジェットバス・シャンプー療法・3週間の抗生剤内服です。


細菌性皮膚炎の典型例です。
リング状に薄皮がむけ、脱毛部が点在し虫食い状態になっています。

拡大すると、にきびのようなポチッとした皮疹や膿を含んだ膿疱疹があります。これがはじけると輪になって皮がむけていき脱毛します。

足の先や指の間の皮膚炎も細菌の感染が多いのですが、寄生虫が原因の場合もあるため検査が必要です。外耳炎や趾間炎はワンちゃんで多い病気です。

痒がって掻いたり・舐めているのをそのままにしていると、症状は悪化し、このような潰瘍を形成します。常に清潔に保つことでふせぐことができます。


口の周り・目の周りの湿潤な環境は細菌感染を起こしやすい場所です。キャバリアなどは皮脂腺が多いので注意しましょう。

このような場所も、耳や指の間と同じように、一日何度でもふいて清潔にすることで、皮膚炎を防ぐことができます。

ネコちゃんでこのような黒いぶつぶつを発見したことはありませんか?
これは、ニキビと同じような細菌感染の初期症状です。

これもそのままにしていると、ニキビの親玉のような皮膚炎がおきてきます。黒いつぶつぶを除去するように、いつも清潔にふいてあげましょう。


真菌感染

カビによる皮膚炎はヒトにもうつるので注意しましょう

カビによる感染の症状はさまざまです。多くの症例でフケ・かさぶた・脱毛が見られ、診断には培養検査が必要です。このネコちゃんは、全身のフケで来院しました。

培養検査で真菌が検出されました。治療は、全身毛刈り・薬用シャンプー・抗真菌薬の内服です。局所的な症例では、塗布薬のみで、毛を刈らなくても治る場合があります。

真菌の培養検査です。このように、黄色の培地が赤く変色すると陽性です。院内で簡単に行うことができますが、結果が出るまで10日くらいかかるものがあります。


寄生虫の感染

ダ二・ノミ・毛包虫等の感染があります

寄生虫の感染は、ヒトにもおきるので注意しましょう。目に見える大きさのものから顕微鏡で検査しないとわからない大きさのものから様々です。
このネコちゃんは全身の痒み・かさぶた・脱毛の症状がありました。

顕微鏡検査で、ダニが観察されました。
耳のふちや顔面に症状が出やすいのですが、全身にも広がります。ヒトへの感染では、アレルギーのような発疹がひろがります。

耳ダニ(ミミヒゼンダニ)です。外耳炎の原因となり、全身に広がる場合もあります。乾燥した黒い耳垢と、強い痒みが特徴です。
この寄生虫の仲間である穿孔ヒゼンダニが前述のネコちゃんの皮膚炎の原因です。

寄生虫の検査は、皮膚をメスで少し削り顕微鏡で観察します。
この寄生虫はニキビダニ(毛包虫)です。正常な皮膚にも寄生していますが、厄介な皮膚炎の原因にもなります。


皮下への細菌感染

多くのケースで皮膚の下に膿の塊をつくり、破裂してしまいます

この症例は1週間前に動物に咬まれたために、わき腹の皮下だけでなく、筋肉の間にも膿がたまっていました。胸の中に入り込むと膿胸となり、生死にかかわる病気になります。皮膚に孔が開くほど咬まれた場合には、すぐにご来院下さい。

顔が変形するほど、付け根が腫れています。
この位置は下顎リンパ節・唾液腺が原因で腫れる場合もあり、注意が必要です。
なぜ腫れているのか調べるために、針を刺して細胞を採取します。

この症例は、中には膿がたまっており培養検査で2種類の細菌が検出されました。通常大きく切開し、中に異物がないのを確認し、開放したままで洗浄を繰り返し治癒させます。抗生剤は検査によって効果があるものを使用します。

肛門のすぐ横に穴が開き、膿がでています。肛門腺が自壊しています。
犬猫には肛門のすぐ脇に臭腺があり、細菌感染を起こすとこのようにひどい状態になります。定期的に絞ることで予防ができます。


脱毛


どちらの病気も、血液検査で診断ができます

甲状腺機能低下症
全身症状は多様で、活動性の低下、食欲増加を伴わない体重増加、とても寒がるようになります。80%の症例で皮膚の異常が認められ、頸部、腰背部、尾根部の肌が黒く色素がつき脱毛します。通常は痒みがないのですが、免疫系の低下により感染症を起こすと痒みを伴うため、診断が難しくなります。

副腎皮質機能亢進症
クッシング症候群と呼ばれ、様々な症状を示します。よく水を飲むという症状が多く、これで飼主様が気がつく場合が多い疾患です。血液検査をすると異常な数値を示し、肝臓障害の他、食欲増加、あえぎ呼吸、活動性の低下、腹部膨満、感染症に弱くなるための皮膚炎や、膀胱炎、左右対称性の脱毛などの症状を呈します。


AlopeciaX(アロペジアX)

性ホルモン失調による脱毛症(ポメラニアンで多発)

この病気は原因不明であり、性ホルモンが関係しているのではないかといわれています。ポメラニアンの雄に多く、健康状態の異常はなく、脱毛だけが進行する病気です。このポメちゃんは5歳で発病しました。

このワンちゃんは去勢手術により、4ヵ月後にはきれいな毛並みになりました。この病気は原因不明のため、診断するには他の病気がないか、除外診断が必要です。この症例のように去勢手術に反応しますが、しばらくすると再発します。

2年後ですが徐々に毛並みが悪くなってきたようです。ヒトの男性の頭の脱毛と同じで、健康状態は申し分ないため、まさしく見た目だけの病気です。かつらや帽子をかぶるように、最終的な治療は、かわいい服を身に着けることになります。

2年半後には元の毛並みに戻ってしまいました。
最近では効果がある内服薬の報告がありますが、高価な治療費、終わりが見えない治療になります。これ以上治療を続けるかどうかは、飼主様のお気持ち次第です。


自己誘発性脱毛

特にネコちゃんで多く、自ら毛を舐め脱毛させます

下腹部を中心に、舐めることができる範囲で脱毛しています。湿疹などの皮膚病変はありません。このような脱毛は、ナイーブな太ったネコちゃんに多いようで、精神的に不安定なことが原因で、グルーミングが過剰になり毛が薄くなったものです。
ノミやアレルギーが原因になる場合があるので、鑑別診断が難しい病気です。


アレルギー

除外診断で最終的にアレルギーやアトピーの診断名になります


ムーンフェイス

アレルギー反応で、顔がお月様のようになります

アレルギー反応が出る前のダックスちゃんです。鼻筋が通ったハンサムちゃんです。
ワクチン接種後、薬剤投与後など何かした後に出たものはわかりますが、そうでないと反応の原因を特定するのは不可能です。

アレルギー反応で、顔全体がむくんでいます。全身的に蕁麻疹が出る場合もあります。食物、虫刺、薬剤、吸入物、植物などが原因と考えられますが特定は不可能で、このケースも原因不明でした。顔が腫れた後、吐き気や、下痢の症状が続く場合もあります。

ワクチン接種2時間後に、ムーンフェイスになった、他のワンちゃんです。急激なアレルギー反応は生死にかかわるので、当院ではワクチン接種後30分は、院内に過ごしていただきます。そして帰宅しても少なくとも半日は注意が必要です。

こちらもワクチン接種後に発症した、別のワンちゃんです。ダックスはアレルギー反応が出やすいので、当院では5種ワクチンを接種しています。それにもかかわらず、このようにアレルギーがでてしまうため、ダックスちゃんでは特に注意が必要です。


アトピー

ヒトと同じように近年多い病気です

日本犬の中で一番アトピーが多いのが柴犬、洋犬ではウエスティーといわれています。
顔面、足先、足の屈曲面に症状が出やすく、3歳未満の発症が一般的です。

同じ柴ちゃんですが、顔面だけでなく足先の炎症もかなりあり、とても痒がっております。
シャンプーや抗生物質で感染症のコントロールをし、ステロイド、抗ヒスタミン薬、免疫抑制剤などで痒みのコントロールをします。

このワンちゃんは顔面、足先だけでなく、体全体的に掻痒があり、夜も寝ずに掻いています。培養検査、抗原検査、病理検査を行いました。感染症を併発するため、抗生剤、薬用シャンプーを欠かすことができません。

肛門や外陰部の周りの炎症は慢性的で、象の皮のようです。痒みのコントロールがかなり難しい難治性のアトピーでは、減感作療法(当院では行っていないのでできる病院をご紹介いたします。)やインターフェロンなども試されます。


アレルギー反応と考えられる症例

確定できませんが、除外診断によりアレルギーが疑われます

ワンちゃんの両側の耳に、対称的な脱毛があり、外耳炎ではないのに痒がっています。全身的な掻痒もありました。除外診断でアレルギー反応しか考えられず、ステロイドの内服で完治いたしました。食事を変更し2年経過しますが、体の痒みも含め再発しておりません。

ネコちゃんの両耳介部に発疹、かさぶた、脱毛、強い痒みがあります。このネコちゃんは、毎年、蚊の出る時期だけ症状があるので、蚊に刺されることでおきたアレルギーと診断しました。その他のアレルギーやダニの感染でも耳介部のみに症状を示すため、除外診断が必要になります。

睾丸が2倍に膨れています。このワンちゃんは体幹部の発疹、外耳炎を伴う場合や、睾丸だけ症状が出る場合があります。病理検査でアレルギーの反応が疑われました。微量なステロイドだけで症状を抑えることがで、現在は食事を変更し、再発しておりません。


耳血腫

耳介が腫れあがる病気

格闘技系のスポーツ選手の耳がつぶれているのと同様の症状です。
原因は、物理的な打撲や外耳炎の痒みで掻くことや、免疫が関与している場合があります。イヌもネコも発症し、痛みや違和感のため頭を振り続け、耳介部が腫れるためすぐに発見できます。
治療は内科療法で治癒しない場合、外科手術を選択します。現在内科療法で100%治癒していますが、1〜3回の処置が必要となります。
外科手術をお悩みの方はご相談下さい。

内科療法は、耳介部に貯留した血様漿液を針で吸引後、薬剤を注入するだけで、麻酔も必要なく5分程度で完了します。この治療を1〜3回行えば耳の形がわずかに変形するものの治癒します。外科手術に比べ費用もかからず、動物に与える苦痛も少ない手技です。
このワンちゃんは他院で耳血腫手術を受け治癒しましたが、反対側耳介にも発症し内科療法ご希望で来院しました。2回の処置で完治し、費用・時間・治癒後の耳の形すべての面で満足されました。