胸腔の病気

胸の病気の多くは、呼吸の異常で発見されます


胸水がたまる病気

胸腔(胸の中)に水がたまるため、肺が膨らむことができません


乳ビ胸

胸腔内に乳ビと呼ばれるリンパ液がたまります

柴ちゃんが呼吸がおかしいという主訴で来院しました。レントゲンを撮ると胸水がたまっています。右の正常なものと比べると、胸の部分が白くなっており、心臓がどこにあるのかわかりません。

正常なワンちゃんの胸のレントゲン写真です。心臓、血管や骨などは白く、空気は黒くうつります。心臓は真ん中にある白い部分、肺はその周りを取り囲むように黒く見えます。

胸腔内の液体を針で吸引し、顕微鏡検査、生化学検査の結果、乳ビ(リンパ液)と判定しました。乳ビ胸は、外傷(交通事故)、腫瘍、心臓疾患、特発性(原因不明)などで犬・猫ともに発症します。

針による胸水除去と、食事療法で治るものもありますが、ほとんどの場合手術が必要です。この仔も2週間ごとに胸水除去しましたが、どうしてもたまってしまい、手術が必要でした。


手術は胸腔を開き、乳ビ管を結札する方法です。このリンパ管は枝別れしている場合があり、結札できなかった管から再発することがあります。この症例では2箇所結札しました。

再発を防ぐために、横隔膜に穴を開けインプラントすることで、胸水を腹腔に逃がす手術も併せて行いました。このほか、心臓の負担を軽くするために心膜切除する場合があります。

手術は成功し、乳ビはたまらなくなりました。しかし胸膜炎の併発で胸水がたまり、2週間ごとに胸水除去し、内科療法で2ヵ月後には完治しました。現在は何も投薬していません。

現在手術後3年経過していますが、再発もなく順調に経過しております。手術後も再発する乳ビ胸に対し、近年、人から応用した有効な内科治療例も報告されております。


膿胸

胸腔内に膿がたまる病気です

ネコちゃんの呼吸がおかしい、との主訴で来院いたしました。レントゲンを撮ると、このように胸腔内に液体がたまっております。顕微鏡検査で、膿であることを確認し、膿胸(のうきょう)と診断いたしました。
腎不全も併発し、非常に危険な状態です。

胸腔内に膿がたまっているため、特殊なチューブを麻酔下で胸腔内に挿入し、この管で毎日胸腔内を洗浄します。抗生物質も投薬し、洗浄液がきれいなものになったら、この管を抜去します。食欲、体力、腎不全の状態をモニターし、点滴治療も行います。

治療開始して、13日後のレントゲン写真です。正常な胸腔内の様子を呈しています。この病気の原因は胸腔内への細菌感染ですが、原因不明のものがほとんどです。この仔は、ケンカが絶えないネコちゃんなので、ケンカ傷が原因かもしれません。

このネコちゃんの場合、外出・ケンカが絶えず、猫白血病ウィルスにも感染しておりました。現在は、白血病および腎不全と戦っております。外出するネコは、家飼いの仔に比べ寿命は半分です。避妊・去勢を実施し、外に出さない工夫をしましょう。


その他、胸水がたまる病気

フィラリア症
フィラリア症とは、蚊に刺され感染し、肺動脈に10cm以上の長さになる紐のような寄生虫が寄生します。心不全の症状で来院しました。月1回の予防をすれば、助かった命が多くあります。

乳腺腫瘍が肺に転移
乳癌で、手術後抗癌剤を投薬していたにもかかわらず、肺に転移しました。実は乳癌も避妊手術で予防ができる場合があります。詳しくは、腫瘍の症例紹介の項目で説明いたします。

FIP(猫伝染性腹膜炎)
コロナウィルスが突然変異しFIPウィルスになります。胸水や腹水がたまらない場合もあり、様々な症状を示すため確定診断が難しく、たとえ病名がわかっても根治が難しい病気です。


心臓疾患

先天性疾患と後天性疾患に大別されます


先天性疾患

動脈管開存症
犬では最も一般的に見られる疾患の一つです。(先天性心疾患の内、約27%の発生率)このワンちゃんは2ヶ月齢のM.ダックスで、突然の呼吸困難で来院しました。特徴的な心雑音、レントゲンで肺動脈、左心耳の突出があり、肺水腫を起こしていました。呼吸困難のため、胃内に空気がたまっています。

無治療で数年症状を示さない症例もありますが、多くは手術により完治する病気です。唯一開業医が手術できる心疾患ですが、成功率を考え、当院では大学病院をご紹介します。この仔は生後3ヶ月齢まで投薬により維持し、患者様の意向により当院で手術しました。残念ながら術後にお亡くなりになりました。

肺動脈弁狭窄症
3ヶ月齢、ウエスティ、無症状でしたが心雑音がわずかに認められたために、レントゲン撮影を行いました。特徴的な肺動脈の突出があります。
有効な内科療法がなく外科治療(バルーンカテーテルによる、狭窄解除)が必要です。大学病院をご紹介いたしております。

このウエスティは、付き合いのあるペットショップのワンちゃんで、販売される前に疾患を特定することができました。
多くの先天性疾患は、ペットショップでの健康診断がしっかり行われていれば、発見できるものばかりです。
しかし実際は、疾患を持ったまま販売され、飼主様が新しい家族を迎えた喜びの中、ワクチン接種などで病院を訪れた時に初めて発見されるケースがほとんどです。
ご購入前にご確認を。


後天性心疾患

フィラリア症
咳をするという症状で来院しました。フィラリアは蚊で伝染する寄生虫です。肺動脈に寄生するため、血行動態の悪化により症状を呈してきます。月1回の予防で防ぐことができますので、『まー、いいっかー』などと考えぬよう、確実に予防しましょう。

別のワンちゃんです。フィラリア症の症状はありませんでしたが、血液検査でフィラリア陽性、手術前検査のレントゲン写真でフィラリア特有の心臓が映し出されました。
診断は簡単な血液検査(98%の精度)で行うことができます。不安な方はご相談下さい。

咳が止まらなくなったワンちゃんです。血液検査でフィラリア陽性。レントゲン写真では、このように肺の部分が白く濁って見えます。特に右の中・後肺葉がひどい様子です。
フィラリア症では、心臓・肺動脈の変形だけではなく、肺の病変も多く観察されます。

治療1ヵ月後のレントゲン写真です。まだ若干肺は汚いものの、ほぼ正常な肺の様子になりました。しかし、今後もフィラリアがいる限り再発する可能性があります。当院では、この程度のフィラリア症には比較的安全な内科治療を施し、重篤な症状を呈するものに外科的治療を選択します。


僧坊弁閉鎖不全症
8才齢、シーズー、心雑音があるものの臨床症状は認められません。しかし、レントゲンで明らかな左心房拡大、超音波検査で僧坊弁の閉鎖不全が認められ、心臓の薬を投薬開始しました。

飼主様が投薬をご自身の判断で中止したため、突然の呼吸困難、元気消失、発咳の症状で来院されました。心陰影の拡大、肺水腫が観察されます。心不全の状態です。強心剤・利尿剤・血管拡張剤などの治療を行います。

3ヵ月後のレントゲンです。肺水腫はおさまってきております。現時点で発咳などの臨床症状はありません。
心臓の薬はいったんはじめたら続けなくてはいけません。中止してしまうと、どんどん進行的に悪化していきます。

僧坊弁閉鎖不全症は小型犬種で、非常に発生頻度の高い心臓病です。このワンちゃんのように最初は左心不全であったものが、病状は徐々に進行し、両心不全がおこり症状は悪化していきます。
心雑音が多少なりとも聞こえた時点で投薬を開始すると、心不全の発現を少しでも遅らすことができるでしょう。


拡張型心筋症
大型犬の純血種で多い傾向がありますが、すべての犬種で起こりうる病気です。心臓が高度に拡張し、心収縮力が顕著に低下します。レントゲン象で拡大した心臓が確認されます。同じように見えるものに心嚢水(心臓周囲の液体)貯留があります。超音波検査で確定診断いたします。

この症例は雑種のワンちゃんです。食欲は少し低下し、元気がないということで来院しました。レントゲンを撮るとこのような円形心を示し、超音波検査で、薄くなり拡張した心筋が観察されました。予後は厳しく、薬剤を使ってもコントロールは難しい疾患です。この仔は飼主様の希望で無治療となりました。

肥大型心筋症
ネコちゃんで発生が多く、ワンちゃんでは珍しい疾患です。中でもメイン・クーンは遺伝的に多く、アメリカン・ショートヘアの家族発症や、雑種猫の家系内発症も報告され遺伝が原因と考えられております。レントゲンで心陰影は拡大し、超音波検査で肥大する心筋が観察されます。

このネコちゃんは、雑種の6才齢。1週間まえからの元気・食欲廃絶で来院しました。心雑音があり、レントゲンで拡大する心陰影が確認され、超音波検査によって、肥大型心筋症と診断しました。この疾患の予後は厳しく、血栓症により後ろ足が動かない状態で発見されるものが、少なくありません。


気管・肺の病気


気管虚脱

発咳、呼吸の異常が診られます

気管虚脱は小型犬・短頭種に起こりやすく、3歳以上の肥満犬に多い疾患です。原因として遺伝的要因、短頭種の慢性的呼吸困難からの併発、肥満などによる換気容量の減少が考えられます。この症例は、咳が止まらないという症状で来院しました。

左の写真は給気時の気管が太くなった状態。上は呼気時に気管が細くなった状態です。このように、給気時・呼気時の気管の状態を比較することで、確定診断をします。内科療法・外科療法がありますが、当院では外科療法の経験はありません。

別のワンちゃんのレントゲンです。給気時のもので、気管・気管支まで拡張しております。ひどい咳で食事もとることができません。気管支拡張剤、抗生剤、鎮咳剤、ステロイド剤の内服や、吸入器(ネブライザー)も効果的です。治療は長くかかる場合もあります。

呼気時に細くなった気管が観察さます。この仔は1ヶ月の内科治療でほとんど咳がなくなりました。繰り返しなる疾患なので、咳がひどい時には投薬しなければなりません。咳は、気管の他に心臓や肺の問題があっても発生するため、鑑別診断が重要です。


肺炎

3歳、パピヨン、咳をする症状です。心雑音はなく、レントゲンを撮るとこのように、肺が白くなっている部分があります。肺炎と診断し、抗生物質、ネブライザーの治療をしました。

治療開始10日目のレントゲンです。肺の白くなった部分がだいぶなくなってきました。この頃には咳の症状はありません。このように肺炎なる原因は誤嚥性、細菌性等が考えられます。

治療開始17日目のレントゲンです。肺の白くなっていたところは消失し、正常な肺野、心臓が写しだされています。抗生物質を中止し、3年経過していますが再発していません。