神経系の病気

侵される場所によって、症状は様々です


脳神経

運動失調・けいれんなどがおきます


脳の病変は侵された部位により様々な症状を示します。けいれん、異常行動、斜頚、旋回、眼球振とう、運動失調、麻痺などです。
若年で発症する病気として、ジステンバー脳炎、パグ脳炎(パグ特有の脳炎)、特発性(原因不明)のてんかん発作などがあります。
老齢動物で発症したけいれんの発作で、進行的に悪化するものには脳腫瘍やジステンバー脳炎が多いようです。脳腫瘍の確定診断にはMRIなどが必要であり、大学病院等の病院をご紹介しております。


脳幹障害

猫伝染性腹膜炎(FIP)が疑われた症例です

3歳のネコちゃんが、突然左側の麻痺で来院しました。神経学的検査では、左側の前後肢ともに不全麻痺を起こしています。痛覚はありました。右側の肢は正常です。
症状から脳幹の障害が疑われました。
猫白血病・猫免疫不全ウィルスは陰性、コロナウィルス抗体価は
400倍でした。しかし、血漿蛋白濃度の上昇、γグロブリン分画の増加、ポリクローナルガンモパシーがみられ、猫伝染性腹膜炎が疑われました。この病気は下痢を起こす、どこにでもいるコロナウィルスが突然変異し、免疫機能を侵す疾患で、胸水・腹水を起こすウエットタイプと、神経症状を起こすドライタイプがあります。この症例はドライタイプの疑いです。
治療に反応し、元気・食欲・歩行ともに正常になりました。しかし猫伝染性腹膜炎は進行的に悪化する病気です。今後も厳重な経過観察が必要だと考えられます。


脊髄疾患

初期は痛み、進行すると麻痺が起きてきます


変形性脊椎症

ヒトで年を取ると腰が曲がってくるものと同じような変化です

変形は年齢とともに進行し、骨が増殖し、つながってくるのが特徴です。臨床上問題となることは少ないようです。

この変化が見られ、症状として麻痺があるのならば、ヘルニア部位を特定するのには、脊髄造影が必要となります。


椎骨奇形?原因不明の脊椎疾患

元気・食欲なく、神経学的な異常がありました

5歳のチワワが動きが鈍いことで来院しました。弟5腰椎が変形しており、両後肢の感覚神経が低下しております。麻痺が進行するならば、脊椎造影検査が必要です。先天性の椎骨奇形かどうか不明ですが、炎症の可能性があったため、抗生剤の投薬のみで治療しました。

1週間後の再診で、臨床症状は改善しました。その後の来院がなかったため、経過は不明ですが、飼主様の連絡で、半年後に死亡したことがわかりました。今回の病状との因果関係は不明です。


椎間板疾患

俗にヘルニアと呼ばれるものです

軟骨異栄養犬種(ダックスフント・コーギー・ビーグル・コッカースパニエル・ペキニーズなど)は、要注意です。この犬種のワンちゃんはヘルニアになる素因があり、若年令での発病も珍しくありません。初期の症状は痛みですが、突然後肢が麻痺することもあります。
痛みだけの場合や、軽度麻痺であれば内科治療に反応します。しかし、後肢がまったく動かず、痛覚まで失ってしまったものでは、早急な手術が必要な場合があります。
診断は、軟骨異栄養犬種で、体の痛みや後肢麻痺があれば、ヘルニアの可能性が高いといえます。しかし、脊椎炎などもあるため、レントゲンで確認します。
急性のヘルニアなどでは、レントゲンに異常が見られないのが普通です。そのため、痛覚も喪失した急性麻痺の場合、内科治療に反応することもありますが、多くの症例では手術が必要になります。飼主様が手術を選択すれば、脊髄造影を実施し、ヘルニア部位の確定を行います。手術を行っても、重症例では予後がかなり厳しい疾患です。
軟骨異栄養犬種のワンちゃんは、日頃から過度な運動をひかえ、適正体重の維持に心がけましょう。それでも、発症してしまう犬種であることを念頭に入れ、痛みのシグナルを逃さないようにし、重症になる前にご来院ください。


3才のM.ダックス、両後肢の突然の麻痺です。痛覚も喪失しています。わずかな椎間板腔の狭窄、不透過性の亢進があります。この所見は、椎間板物質が脊髄を圧迫しヘルニアを起こしています。手術が適用される症例ですが、飼主様は内科治療を希望しました。

仰向けレントゲンで狭窄はわかりません。外科を目的とした脊髄造影しか確定できません。炎症ではないため、ステロイドを使用しましたが、内科治療に反応せず下半身不随の状態です。

12歳のM.ダックスが動きたがらない、体を触られるのを嫌がることで来院しました。腰の部分の痛みがあり、神経学的には正常でした。レントゲンで椎間板腔の狭窄、わずかな石灰化が認められ、ヘルニアと診断しました。減量、安静、ステロイドの内科治療に反応し、現在は良好です。

仰向けでも狭窄は明らかです。前の症例より、レントゲン上の変化は強いのですが、臨床症状は軽度です。これこそヘルニアが、脊髄造影なしでは重傷度がわからない理由となります。


脊髄造影は、全身麻酔が必要です。後頭部のすぐ後ろ、もしくは脊椎間に針を通して造影剤を注入します。

造影液を注入することで、椎間板の突出した場所を特定できます。コレは、一般的に手術を前提にする検査のため、手術を希望しなければ造影検査もしません。

脊髄を圧迫している場所がわかれば、その部分の脊椎を削り椎間板物質を除去します。圧迫箇所が広範囲にわたる場合もあります。

内科治療で25%。外科治療の併用で24時間以内に手術できれば70%が回復するといわれています。時間が経てば経つほど回復する可能性は低下します。


馬尾症候群

脊髄神経の尾に近い部分が馬の尾のように分かれているので、こう呼ばれます。

馬尾症候群は後肢のもつれ、痛みが初期症状です。診断が難しく、その他脊髄疾患、股関節、膝関節の疾患を必ず除外しなければいけません。このワンちゃんは、半年前、他院で膝の手術を受けていました。

前のレントゲンと同じワンちゃんですが、角度を変えるとかなり→の部分がずれています。コレに造影検査を行えば診断は完璧です。このワンちゃんはすでに歩行困難、排尿・排便困難になっていました。

圧迫を受けている腰仙椎の骨を削り(背側椎弓切除術)、脊髄の圧迫解除します。その後、動揺している関節を固定するため、スクリューで関節固定します。今回は、骨セメントは使用しませんでした。

このワンちゃんは腰を起こすことも出来ない状態でしたが、術後長期の入院、スーパーライザー施療、リハビリで回復することができました。一般的に術後1〜2ヶ月間、関節が固定されるまで運動制限が必要です。


脊髄損傷

脊椎の骨折で起き、予後はかなり厳しいものです

交通事故で、脊椎が圧迫骨折した症例です。詳しくは、骨・関節の病気 のページでご紹介してあります。これ以上の脊髄への損傷を回避するため、手術を行いました。

手術は成功しましたが後肢は完全に麻痺した状態です。ワンちゃんでは、後躯麻痺のための車椅子があり、お散歩なども楽しむことができます。


新生物による脊髄圧迫

痛みが激しい場合が多く、予後は厳しいものです

飼主不明のネコちゃんが、保護されました。後肢は痛覚を喪失し、麻痺が起きています。レントゲンで、多発的に骨様腫瘤が散在しております。血液検査で猫白血病ウィルス陽性です。

脊髄造影で脊髄内の病変も確認されました。おそらくこの部位で脊髄が圧迫され、後肢の神経麻痺が起きていることが考えられます。ヘルニアの場合はこの部位の手術となります。

麻布大学でCTをとってみると、明らかに硬膜外での骨様物質が観察されます。病理学的診断により、多発性骨軟骨腫症という非常に珍しい病気と診断されました。

多発性骨軟骨腫症
は、猫白血病ウィルスが発生に関与しているといわれます。有効な治療法はなく、症状緩和のための外科手術のみで、予後は非常に厳しい病気です。
その他、脊髄にできる腫瘍で悪性の場合は、予後不良のケースが非常に高いといえましょう。


抹消神経疾患・その他の神経疾患


重症筋無力症が疑われた症例

残念ながら、確定診断が難しい病気です

4歳のチャウチャウが、運動能力の低下、吐出(食べてすぐの嘔吐)の症状があり来院しました。
歩行可能ですが、疲れてすぐ座ってしまう様子です。レントゲンで巨大食道症が観察されます。特発性(原因不明)でなる場合もあり、鑑別診断が必要です。

心臓の前の食道には食べ物が充満しています。重症筋無力症が疑われ、大学病院のAchR抗体測定で抗体価は低く、院内でできる投薬試験、血液検査でも確定できません。鑑別診断のため大学病院を紹介しましたが、飼主様は希望しませんでした。

腰椎には椎間板腔の狭窄・変形性脊椎症の所見があります。鑑別診断のための、脊髄造影、筋バイオプシー、筋電図による疲労試験など必要な検査は行えませんでした。重症筋無力症の治療にわずかに反応したものの、8ヶ月後に死亡しました。