飼いウサギは、アナウサギを家畜化したもので、現在では150もの種類が見られます。
基本的に寒さに強く、暑さに弱い動物です。しかし、5℃以下になる場合は暖房が必要で、30℃以上の高温では熱射病になりやすいため注意が必要です。
完全な草食動物であり、野生のウサギは、草の茎、樹皮等の栄養価が乏しく、粗繊維を多く含むものを食べています。しかし、飼いウサギは高栄養価のペレット主食でビスケットまで与えられ、病気にならないほうがおかしいほどです。
事実、ウサギの病気といえば、繊維質の乏しいペレット主食のために起きる病気が最も多いのです。
その2大疾病といえるのが、毛球症と歯の不整咬合です。しかも、成熟個体は食事の変化を嫌い、主食をペレットから牧草にすることは不可能なため、再発を繰り返し、治癒しにくい病気といえます。
ウサギは完全な草食動物です。野生のウサギは繊維質の豊富な草を食べるのですが、飼いウサギの場合はペレットが主食の場合が多く、どうしても繊維が不足します。グルーミングが大好きで、猫以上に身づくろいをせっせとしますが、綿のように細い毛は当然胃の中に入り、毛球を形成します。猫の場合は吐くことができるのですが、ウサギは絶対に吐くことができない動物なのです。そのため、胃内の毛球はだんだん大きく成長し、運悪く腸に流れ込めば腸閉塞となり、より急性に重篤な症状を呈し、死亡するケースは少なくありません。
ウサギさんの場合、ペレットが主体になっている食生活を、途中で牧草主体にすることはほとんど不可能です。せめて、繊維質の豊富な生野菜を多給するしかないでしょう。そのため効果的な予防は、毎日のブラッシングしかありません。
毛球症は命にかかわる病気です。多くの症例は内科療法で治癒しますが、早期・軽度の場合だけです。大きくても胃内の単純な毛球は、手術の治癒率は高いです。しかし、腸管の完全な閉塞状態に伴いガスが産生され、全身状態が悪化したものは、手術をしても助けることができないこともあります。
この病気も、ペレット主体の食事で起きる病気です。
ウサギさんの歯は我々の歯と違い、常生歯といって一生延び続けます。繊維質の豊富な草を奥歯でもぐもぐ磨り潰すことで、伸び続ける歯も磨耗していきます。しかしペレットでは、いくら繊維質が豊富でも咀嚼回数は少ないうえ、どんなにやわらかいペレットでも、割る衝撃は歯に伝わります。この衝撃の繰り返しで、奥歯が曲がって生えてきてしまうのです。曲がった奥歯は、すり合わせの磨耗で、どんどん曲がりが激しくなります。しかも、刃物を研ぐような磨耗の仕方をするため、歯の尖端が尖り、舌や頬肉を傷つけることになります。こうなるとよだれが激しくなり、痛くて食事をとることもできません。のびてきたら、歯を削るしか対症療法がないのです。当院では奥歯を削る場合、全身麻酔が必要です。
前歯も奥歯の伸びすぎが原因で、咬みあわせが悪くなる場合があります。ケージなどかなり硬いものをかじりすぎて、前歯が曲がってしまうこともあります。獣医さんが、昔ながらのペンチ等を使い曲がってきた前歯を切ることで、捻転力が加わり一層歯が曲がる場合もあります。当院では前歯・切歯はドリルにより研磨します。この場合麻酔は必要ありません。
こうした歯の不整咬合が原因で、歯の根っこの難治性の膿瘍ができたり、鼻涙管の閉塞による目ヤニ、膿性の鼻汁・鼻づまりがおきます。
牧草主体の食生活に改善できるなら、ぜひお願いいたします。
生後5ヶ月のウサギが、前歯が合わさっていることで来院しました。元気食欲は正常で、牧草も食べることができます。奥歯はやや曲がっているものの、長さや形の変形はありません。正常な咬合になるよう、ドリルで削ります。麻酔は必要ありませんでした。
未だ幼弱なウサギさんだったため、切歯を斜めに削り、物理的な力で切歯がスライドし、正常な咬合になるようにしました。1週間に1度の処置を約2ヶ月つづけ、矯正することができました。牧草のみの食事に改善できたことも、成功の要因です。
奥歯も長くなり、軽度の棘が形成されています。前歯と同時に、奥歯を削らなければ正常な咬合になりません。麻酔をかけ奥歯を平らにし、切歯を前の症例のように削ってみました。しかし矯正はできず、定期的な麻酔下での処置が必要になっています。
小学校で飼育されている8歳のウサギです。右前足が腫脹・出血しています。細胞診は炎症細胞のみで、膿瘍の疑いです。ウサギの膿瘍は、投薬のみで治癒する場合もありますが、多くはカプセルを形成し治癒しにくい疾患です。外科切除できれば一番いいのですが、それができない顎の骨や足先にできることが多いようです。
ウサギの膿瘍で使用する、抗生剤と抗炎症剤を投薬開始しました。1ヵ月後には出血し腫れあがっていた足は、軽度のふくらみを残し発毛しました。しかし、完全に治癒することなく繰り返し再発し、投薬を中止することができません。
結果的に外科切除が選択されるべき症例となりました。
4歳のウサギの斜頚・眼振(眼がグリグリ動いている状態)です。半年前に発病し、他院で死の宣告を受けたようです。症状からエンセファリトゾーン症が疑われます。この病気は後躯麻痺、眼振・斜頚を起こし神経症状で死亡する、怖い病気です。飼いウサギの50%以上が、この原虫が寄生しているといわれます。糞便で感染していくため、発病しない個体でも注意が必要です。
斜頚の状態で、動きも思うままにならないため、多くの個体で糞尿によるお尻のただれが発生します。この仔は蛆虫が発生していました。エンセファリトゾーン症・ハエ蛆症の治療をしました。経過が長かったため斜頚は残りましたが、2ヵ月後には皮膚のただれも治り、まっすぐに歩くこともできます。元気食欲は正常です。この病気は血液検査で診断できるのでご相談下さい。
6歳のウサギさんが、食欲不振・眼振・後肢のもつれで来院しました。エンセファリトゾーンを疑い、血液検査で抗体を調べましたが、結果はグレーゾーン(はっきり否定も肯定もできないレベル)の抗体価です。しかし、エンセファリトゾーンの治療に反応し、症状は改善しました。症状は改善し始めましたが、その治療中間歇的に尿に血が混ざる症状が診られ、膀胱もしくは子宮疾患を疑い精査しました。
レントゲンでは、膀胱内の砂粒(ウサギは正常でも尿中のカルシウム成分が砂状に沈殿することが多い。このような所見が診られたら、アルファアルファなどカルシウム成分の多い食事は中止しなければいけません。)が診られます。膀胱の前に子宮らしき陰影が観察でき、石灰が沈着しているような所見がありました。超音波検査でも液体の貯留する子宮らしき臓器が観察できました。
すぐにも手術をお勧めしたかったのですが、エンセファリトゾーンの治療のためステロイドを投薬中です。エンセファリトゾーンが治癒した2ヵ月後、開腹手術を行いました。その間、間歇的な血尿・血液検査で軽度貧血が確認されました。摘出した子宮は、病理検査で子宮腺癌が診断されました。手術は成功しウサちゃんは元気になりましたが、腺癌は転移しやすいため今後も厳重な注意が必要です。
4歳のウサギが、皮膚炎で来院しました。皮膚炎は細菌感染によるものです。治療のため保定したところ、あばれてしまい腰椎骨折しました。これは明らに当院の過失です。ウサギさんの後肢のキック力は強いので、保定には気を付けなくてはいけないことは明らかです。ウサギさん、飼主様にはお詫びしても許してもらえないでしょう。
当院の恥となることを掲載したのは、このことが私自身の戒めとなり、2度と繰り返さないことを誓ってのことです。
ウサギの骨折は、腰椎だけに限らず四肢骨においても、手術しても薄い骨のため再骨折する恐れがあり難しい疾患です。この症例は後躯麻痺となり、最後は脊髄軟化症で死亡いたしました。