見た目で判断できるものは限られています。必要なのは院内でできる細胞診断、そして病理学検査です。こうした検査を踏んで、はじめて悪性・良性の診断が下されます。そして、できた腫瘍の種類によって選択される処置も異なり、予後も違ってくるのです。
8才のG.レトリバーの耳の下に2cmのできものができています。
院内の細胞診では確定診断はできませんでした。飼主様と相談し、外科切除し病理検査にだしました。結果は基底細胞腫という良性の腫瘍でした。
このように悪性・良性を診断するために、病理検査しなければわからない腫瘍もあります。この症例では完全切除し病理検査をしましたが、一部だけ組織を採取し検査をする場合もあります。
5才の雑種のワンちゃんです。2ヶ月前に発見した胸のほくろが、最近急に大きくなり、化膿し悪臭がすることで来院しました。細胞診でメラニン色素(黒い顆粒)を含む細胞が観察され、悪性の可能性があることを説明後、切除手術を行いました。病理検査の結果は悪性メラノーマでした。
飼主様のご希望で、切除手術のみの治療でしたが、半年後に死亡したそうです。悪性メラノーマは転移を起こしやすく、一分一秒でも早い手術が望まれる腫瘍です。ほくろを発見した時に来院していただければ、予後が違ったものになったかもしれません。
10歳のシーズーが、肘に4cmの腫瘍があり自壊・出血、全身的に1cm程度の結節が多数できています。他院で悪性腫瘍の疑いだと診断されましたが、インフォームドコンセントがされず、不安を募らせての転院です。癌との戦いで最も重要なのは患者様の納得とご理解、病院への信頼です。先ず患者様と十分に話し合いを致しました。
局所麻酔でのバイオプシーを実施し、悪性リンパ腫と病理学的に診断されました。リンパ腫は、癌のなかで唯一抗がん剤がよく効き、闘うことができる癌です。患者様には再度、患者様が納得いくまで治療方針を説明し、コンビネーションによる抗がん剤治療を開始しました。
3週間後には体中にできていた腫瘍はわからない程度になりました。
リンパ腫の中でも皮膚型は抗がん剤の効きにくい腫瘍です。投薬開始時は劇的に効果を挙げていた抗がん剤も、約2ヵ月後には効果が薄れ前肢にこのような腫瘍ができました。再燃(癌が再発すること)です。こうした再燃を何度も繰り返し、その度に抗がん剤を違う種類のものに変えましたが、徐々に抗がん剤が効かなくなっていきました。
癌は口腔粘膜にもでき、抗がん剤を単独やコンビネーションで合計10種類も使用しましたが、治療開始8ヶ月後は、どの抗がん剤も効かなくなりました。皮膚病変のみの場合、末期は皮膚がボロボロになり悲惨な状態です。しかし、このワンちゃんは、死を迎える1週間前まで食事を摂り、人の時間で4年間、比較的元気に過ごすことができました。
細胞診で診断が可能な、かなり悪性度の高い腫瘍です。悪性メラノーマ同様に、転移・再発するため一秒でも早い手術が望まれます。手術は、できものを含めたかなり大きな範囲の切除が必要で、足先のほんの小さなおできでも断脚しなければならないケースもあります。放射線治療も効果があります。抗がん剤治療も補助的に使用されます。腫瘍がどの程度悪いかという組織学的グレードが、予後に大きく関与します。