血液を染色し顕微鏡で確認します。血小板は明らかに少なく、白血球は炎症像を示していました。有核赤血球は血液の再生像です。普段は観察できない球状赤血球が観察されます。これは、免疫介在性溶血性貧血の所見です。
血小板減少症を伴う免疫介在性溶血性貧血と診断し、ステロイド、免疫抑制剤、抗がん剤(ビンクリスチン)で治療しました。1週間後の再診には、軽度貧血、血小板増多、白血球の正常化、出血斑の減少が診られ経過良好です。
先天性では、ジャックラッセルテリア、スプリンガースパニエル、フォックステリアなどの犬種に多く、生後2ヶ月くらいで発症し、筋衰弱が進行的に顕著となります。
後天性はすべての犬種、ねこちゃんで発生しますが、特に1〜4、9〜13歳の中型〜大型犬(シェパード、G・レトリバー、R・レトリバー)、アビシニアン、ソマリに多く発生が見られます。骨格筋の衰弱が顕著に認められる典型例のほか、流涎、吐出、巨大食道症、咽喉頭麻痺、変声、誤嚥性肺炎、胸腺腫等症状は多岐にわたります。しかし、診断をつけることが非常に難しい病気のため、見過ごされるケースも少なくありません。
治療に反応するものの予後は良好で、犬では自然に治ってしまう場合もあるようです。猫は治療に抵抗するものが多いようです。
現在当院では、3症例を治療中ですが、いずれも犬種はM.ダックスフントです。原因は多様で、症状も多彩です。
症状:発熱(40度前後の微熱)
食欲不振・活動性の低下
白血球増多症のみられることがある
皮下のしこりが特徴、多発的にできることが多い
皮下のしこりが最初に触知され、次第に表皮近くまで波及する
しこりの体表に一番近い部分が破裂して、膿様あるいは漿液様の液体を排出する
以前の手術による縫合糸が原因で発症する場合がある
適切な治療をしないと、いつまでも膿を排出し続け、次第に衰弱していく厄介な病気。
この病気の症状は多様で、発熱・食欲不振のみの場合や、まるでSLE(全身性紅斑性狼瘡)のような症状もあるため、鑑別診断が重要となります。
細菌培養・細胞診・血液検査・抗核抗体検査・病理検査などによって確定されます。
本疾患の多くは治療に反応し、再発のない場合があるといわれています。
しかし、ダックスフントは治療への反応が悪く、薬剤の減量とともに再発することが珍しくないので、飼主様に十分説明する必要があります。事実、当院の3症例とも薬剤減量中に再発を繰り返しております。
治療は、ステロイド剤や免疫抑制剤、テトラサイクリン、ニコチン酸アミド、ビタミンEを組み合わせて使用します。
手術の際に使用した縫合糸が原因になる場合もあり、外科的に縫合糸を除去するだけで治癒する場合もあります。
しかし、ダックスフントのように難治性の場合は、飼主様に多大なる時間・費用・精神的負担が要求される、悪性腫瘍のような疾患です。
2歳のM.ダックス、微熱があり、元気食欲なく、股の付け根に孔が開き漿液がでています。他院からの転院で、内股に関しては免疫関与の病気である説明を受けてました。全身状態の悪化、脂肪織炎との鑑別診断が必要です。
しこりに針を刺し細胞診をしたところ、膿様液体が採取され慢性炎症像です。組織を採取し病理検査で、化膿性肉芽腫性炎症病変の検査結果です。他院での去勢手術の縫合糸が原因も考えられ、その場合は外科手術が効果的です。
免疫抑制量のステロイドの治療に反応し、頸部・内股のしこりは消失しました。しかし薬剤を減量すると、他の部位にしこりが突然できたり、発熱し元気食欲が消失する状態を繰り返します。現在、縫合糸除去の外科手術を検討中です。
1歳半のM.ダックスが元気食欲はありますが、前足の跛行で来院。微熱はありますが、原因不明で鎮痛・解熱剤の投薬をしました。4日後も発熱があり症状は改善していませんが、4日前発見できなかった体側のしこりが触知されました。
細胞診ではこのような非変性性好中球と、泡沫状マクロファージが観察され、無菌性結節性皮下脂肪織炎の可能性が強く示唆されました。培養検査の結果を待って、免疫抑制量のステロイドで治療し、1週間後にしこりは消失しました。
しこりが消失し、ステロイド減量中、突然内股にしこりができ自壊排液。再びステロイドを増量し治癒しました。3度目にステロイド減量中にできたの体側のしこりは、ステロイドの反応がなく免疫抑制剤を使用し、現在維持しております。
症例は、8歳M.ダックス、元気・食欲なく40度台の発熱があります。リンパ節炎・関節炎もなく、血液検査、レントゲン検査、超音波検査に異常がありません。抗核抗体検査、クームス検査陰性。原因不明の発熱と仮診断し、抗炎症量のステロイドで治療したところ、平熱になり臨床状態は改善しました。ステロイドを減量・中止したところ、1ヵ月後に同様の症状が観察され、5mmの皮下結節が1つ形成されました。細胞診で十分な細胞がとれず、ステロイドの治療を開始したところ、結節は消失し、臨床状態も改善しました。
この症例は確定診断がなされておらず、たえず不安のままに微量のステロイド剤で治療していました。2年経過したところで、突然、下記写真のように左後肢のパッド直上の部分が腫脹しました。細胞診断を行ったところ、前述の細胞像を確認し、ステロイド剤のみで治療し治癒しました。現在も微量のステロイド剤で維持しております。